COMS(シーモス)とは、N型とP型のMOSを組み合わせた回路構造のことです。英語の「Complementary Metal-Oxide-Semiconductor」の頭文字を取った言葉で、日本語に直すと「相補型金属酸化膜半導体」となります。特徴は、消費電力が小さく、微細化が可能なところ。現代の半導体デバイスの基本構造にもなっており、パソコンのインバーターやイメージセンサーなど、さまざまな機器に使われています。
続いて、CMOSの回路構造を簡単に説明します。今回例に挙げるのは、基本的な回路である「インバーター回路」。インバーター回路とは、0を入力すると1、1を入力すると0を出力する回路のことです。N型のMOSとP型のMOSのゲートが接続すると「入力」、N型のMOSとP型のMOSのドレインが接続すると「出力」として使用できます。N型のMOSのソースは接地に、P型のMOSのソースは電源に接続している状態です。
CMOSインバーターでは、入力電圧に応じてN型のMOSとP型のMOSのいずれか一方が必ずOFFの状態になります。CMOSではN型とP型の特性を、お互いに補い合いながら利用するため、消費電力量の低減に効果が期待できるのです。
CMOSの使用上の注意点は、寄生素子が生じるところ。何らかの原因で入力電圧が電源電圧範囲から外れると、MOSFETがオンのままになる「ラッチアップ現象」が発生します。ラッチアップ現象の発生を防ぐには、電源電圧範囲を超えそうな入力端子に、保護回路を設けることが必要です。
また、入力電圧の調整にも要注意。入力電圧がHとLの中間になると、本来両方がオンになってはいけない電源側と接地側の両方がオンになってしまう可能性があります。最悪の場合ショートした状態になり、大電流が流れたり自身が破損したりするケースがあるのです。CMOSを使用するときは、電位を安定させることも大切です。
CMOSの根本的な考え方である「相補的回路」の原理は、1953年にアメリカの電子技術者であるジョージ・クリフォード・シクライによって、「シクライ・ペア」の名称で初めて発表されました。1962年には、アメリカの大企業RCA社に勤務する研究者ポール・K・ウェイマーが、CMOSに近い薄膜トランジスタ相補型回路を発明。CMOSに必要なMOSFETは、1950年代後半から1960年代前半にかけて登場しました。
その後、1960年代前半にCMOSが登場。当初は速度性能の面で不十分なところがありましたが、1960年代後半以降日本の企業が中心になって性能を高めて行きました。1980年代以降は、海外の企業も積極的にCMOSを取り入れるようになります。そしてCMOSは、半導体デバイス製造の主流技術として、その地位を確立していきました。