FlexRay(フレックスレイ)とは、車に搭載する車載ネットワークの通信プロトコルの一種のことです。自動車をはじめとした乗り物には多くのECU(電子制御装置)が搭載されており、ネットワーク接続により制御することで稼働しています。FlexRayは数ある車載ネットワーク通信プロトコルのなかでも、特に機能性に優れているのが特徴です。

FlexRayの開発に至った経緯には、自動車の電子制御化が進んだことが関係しています。自動車の電子制御化が進んでさまざまな機能が搭載されるようになっため、CANやLINといった他の車載ネットワーク以上に複雑化や通信量の増加に対応できるものが求められるようになったのです。自動車を動かすための通信プロトコルをFlexRayにまとめることで、コスト削減やシステムの最適化、品質の向上が期待できます。また、電気的にブレーキ操作やステアリング操作ができる「X-by-Wire(エックス・バイ・ワイヤ)」システムへの移行にも活用できるため、FlexRayの開発・普及が進みました。

FlexRayの機能の特徴は、「TDMA(時分割多重アクセス)」という通信方式に対応していること、幅広いネットワークトポロジーに対応していること、障害耐性に優れていることなどです。TDMAとは、通信時間を一定時間ごとに分割し、多重化通信を実現している通信方法のこと。各フレームが通信するタイミングを事前に決められるため、フレーム同士の衝突を防いだり通信負荷を一定に保ったりできます。

また、バス型・スター型・混合型など幅広い種類のネットワークトポロジーに対応しているおり、さまざまな車種に搭載することが可能です。さらに、ネットワークを二重化しているため、どちらか一方のネットワークが寸断されても残りの一方で正常な通信を保てます。ほかにも、FlexRayには相互監視を行うノード構造や通信同期機能、CANの10倍である10Mbpsもの通信速度があり、安全性・信頼性・機能性を兼ね備えています。

FlexRayが初めて自動車に搭載されたのは、2006年のことです。ドイツに拠点を置くBMW社が、BMW X5のAdaptive Drive(アダプティブ ドライブ)という電子ダンパー制御システムに採用しました。その後もBMW社ではFlexRayを搭載した車種は増加するほか、ヨーロッパ各社ではFlexRayを活用したパラメータセットやデータベースフォーマットの開発が進められています。日本でも2009年末を目途にFlexRay規格を制定する計画がありましたが、製造コストの増加による価格上昇を懸念した各自動車メーカーが躊躇し、なかなか導入されませんでした。日本の自動車メーカーが量産車にFlexRayを導入することを発表したのは、2012年4月。これ以降は多くの日本車にもFlexRayが搭載されています。