HBT(エイチビーティー)とは、SiGeとSi、GaAsとAlGaAsのような異なる半導体同士の接合を利用したバイポーラトランジスタの素子構造のことです。英語の「Heterojunction Bipolar Transistor」を略した言葉で、日本語だと「ヘテロ接合バイポーラトランジスタ」と言います。電流増幅率を下げることなく動作速度を向上させられるのが特徴です。

動作速度を向上させられる理由は、エミッタ層とベース層に使用する材料を工夫しているから。HBTを高速で動かすにはベース層を薄くし、キャリア濃度(電荷キャリアの個数)を上げる必要があります。そこでHBTにはエミッタ層にバンドギャップが大きい材料を、ベース層にはバンドギャップが小さい材料を用いました。そうすることで動作時には拡散電流がベース領域で失われることを防ぎつつ、ベース層からエミッタ層への拡散電流を阻止し、素早い動きを実現しています。

HBTは、異なる半導体を組み合わせて製造します。半導体の組み合わせはSiGeとSi、GaAsとAlGaAs、GaInPとGaAs、GaInAsとInPなどさまざまです。例えばGaInPとGaAsを組み合わせて造るときは、GaAs基板上にMOCVD法やMBE法を用いてコレクタ層・サブコレクタ層・ベース層などの層を形成します。MOCVD法は有機金属やガスから結晶を成長させる方法、MBE法は超高真空下で成分元素・構成分子を発生させ、結晶構造の薄膜を生成する方法です。

断面を台形に加工したメサ型構造のものが多く、コレクタ・ベース層・エミッタ層といった電極を形成した後、配線を施してトランジスタを造ります。微細なゲートを製作せず、ベース層の厚さとキャリア濃度の作り込み方でトランジスタ特性が決まるのが特徴です。エピタキシャル成長を用いると、厚さをnm単位まで緻密に加工することが可能。HBTの特性である動作速度の速さを実現するには、電荷を蓄えられる容量成分が求められるため、ある程度微細化しておくことが求められます。

HBTの静特性は、ベース層の抵抗率が低下すると電流増幅率も低下します。結晶性や構造の工夫により改善が見込まれるので、できるだけ電流増幅率が高くなるような材料や構造を選ぶことが大切です。 HBTの主な用途は、携帯電話や無線LANのパワー・アンプなどです。パワー・アンプに用いると線形特性に優れることから、第3世代携帯電話(3G)によく使われました。ほかにも各種光通信向けの高速素子、ミリ波レーダ、高速通信機器など用途は多岐にわたります。Si系のHTBのうち1~10GHzあたりではCMOSやHEMTとも競合していましたが、情報処理分野ではSi系LSIがよく用いられています。