HEMT(ヘムト)とは、化合物半導体で作製されるトランジスタのことです。英語の「High Electron Mobility Transistor」の頭文字を組み合わせた言葉で、日本語だと「高電子移動度トランジスタ」と訳せます。2種類以上の元素を組み合わせて製造しており、GaAs系・InP系・GaN系などさまざまな種類があります。1979年に富士通研究所の三村高志氏が発明しました。

HEMTの特徴は、従来のトランジスタよりも高速で、雑音が入りにくいところです。HEMTは基盤、電子が発生する層、電子が移動する層を分けて構築しています。発生した電子は不純物が入っていない層に移動してから出口電源に向かうため、不純物にぶつかることはありません。不純物にぶつかることによる電子の移動の遅延や雑音の発生を防いでいるため、従来のトランジスタよりも高い機能を実現できています。

HEMTの種類は、GaAs系・InP系・GaN系など幅広く存在しています。基本となるのはGaAs系で、GaAs基盤の上にトリメチルガリウムとアルシンを流し込み、基板を熱して不要な成分を蒸発させ、Ga(ガリウム)とAs(ひ素)のみを定着させて層を形成します。このような層を形成する手順を何度も繰り返すことで、GaAs系のHEMTが完成するのです。

元素の組み合わせによって、HEMTの性能も変化します。InP系は電子移動度・電子飽和速度・電子濃度が高く、HEMTのなかでも特に性能が優れているとされています。GaN系は電子濃度と熱伝導率の面で秀でており、使い続けるほど熱くなりやすいパワーアンプなどに使われるのが特徴です。

HEMTを取り入れた製品を製造する現場では、製品に合わせて使用するHEMTを使い分けています。例えば自動車用レーダの場合は、情報を高速処理できるIn(インジウム)を使ったHEMTを使うのが一般的。自動車用レーダが発する76GHzの周波数帯を用い、車間距離や車線の位置などの計測を通して安全な運転をサポートします。携帯電話基地局システムでは高電流と高電圧への耐性が重要になるため、GaN(窒化ガリウム)を使ったHEMTを使うケースが多い傾向にあります。 近年、GaN系のHEMTは、パワー半導体の製造に用いられる場面が多くなりました。加工が容易にできること、構造が分かりやすいこと、基盤として使用するSi基盤が比較的安価で入手できることなどが理由だそうです。複雑かつ繊細な加工が要らず、古い世代の半導体装置のほとんどをそのまま転用できるため、多くの企業が参入しやすいことも追い風になっています。GaN系のHEMTは熱伝導率に優れていることから、通信機器への搭載等が期待されています。