High-κ絶縁体とは、高誘電率の材料を用いたゲート絶縁膜のことです。誘電率が高くなるほど蓄電量は大きくなります。基盤とゲートの間に挟まれた薄い層であるゲート絶縁膜を生成する際、二酸化ケイ素よりも誘電率が高い材料を使用するのが一般的です。本来なら流れ出ない場所から流れるリーク電流の抑制にも効果が期待できます。

1990年代はSiO2(二酸化ケイ素)を使用したゲート絶縁膜が主流でしたが、2000代になると、半導体の製造プロセスの細分化が急激に進みました。ゲート絶縁膜の厚さは数nmまで薄くなり、当時は絶縁膜をすり抜けるリーク電流の増加が大きな課題となっていました。そこで注目を集めたのが、二酸化ケイ素よりも誘電率が高いHigh-κです。

誘電率が高い絶縁体だと、大量の情報を高速で処理したり、より高性能な製品を製造したりできるようになります。2007年にはHigh-κ絶縁体を用いた製品の出荷が始まり、トランジスタの性能・特性を維持したままリーク電流も削減できるようになりました。

ただし、二酸化ケイ素のゲート絶縁膜をHigh-κ絶縁体に置き換えることは容易ではありませんでした。絶縁膜の層が薄すぎると「トンネル効果」により、リーク電流が増加しやすくなるからです。二酸化ケイ素のゲート絶縁膜を生成する際は、下層のシリコンを熱酸化させ、均一性と界面特性を両立する必要があります。High-κ絶縁体の開発時は、この二酸化ケイ素の生成プロセスに落とし込める新たな材料を探すことが求められました。

High-κ絶縁体の開発にあたり注目を集めたのが、ケイ酸ハフニウム・ケイ酸ジルコニウム・酸化ハフニウムなどです。ただしこれらの材料は酸とほとんど溶けないため、そのままだとエッチング等で加工を施すのは困難です。そこで、それぞれの材料に酸と反応しやすい材料を混ぜてからHigh-κ絶縁体を精製するようになりました。これにより最初に溶けやすい材料が酸と反応して除去され、High-κ絶縁体に必要な材料も剥がれて精製が進みます。化学反応を活かすことで、High-κ絶縁体の精製を成功させたのです。

2007年のインテルによるHigh-κ絶縁体の展開を皮切りに、世界中でHigh-κ絶縁体が用いられるようになりました。現在、High-κ絶縁体を用いた半導体は、フラッシュメモリ・高速プロセッサ・DRAMといった高性能半導体デバイスの製造に用いられています。数ある半導体のなかでも特に性能が優れたものに用いられていることから、High-κ絶縁体は今後の半導体技術・半導体デバイスの向上に寄与するものとして期待されています。